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微生物も行為主体?――アクターネットワーク理論(ANT)が描く人間以上の世界観

 新型コロナウイルス(COVID-19)は恐ろしい存在でした。各国はこの感染爆発を受けてロックダウンを決定し、街の様相は一変しました。人々は外出の自粛を求められ、その影響は仕事、学習、買い物、余暇の過ごし方、さらにはメンタルヘルスにまで及びました。在宅勤務やオンライン授業が一般化し、ZOOMというウェブ会議サービスが普及したのも、この頃にあたります。他方、コロナの影響で客足が途絶えたことにより、事業規模を縮小した店や廃業に追い込まれた店も少なくありません。かたや製薬会社はワクチン開発に集中し、mRNAワクチンという新タイプの技術も現れました。新型コロナウイルスや、それによる生活の変化をテーマにした歌や映画作品も作られました。
 一言にして言えば、新型コロナウイルスは私たちの移動・生活・経済・政治・技術・感性・交流など、様々な面に変化をもたらしたのです。

行為主体を再定義する

 一般的な認識では、「主体」と言われるものは人間だけ、あるいはせいぜい特定の動物まで、と思われがちです。しかし、世界を動かしているのは人間だけではありません。人間社会は人間以外の様々な立役者、つまり「アクター」たちの作用に多大な影響を受けています。そのアクターと言われる存在には、動物、植物、微生物、さらには無生物や抽象概念(制度やルールなど)までが含まれます。この見落とされがちな事実に光を当てるのが、アクターネットワーク理論(ANT)です。
 ANTは人間とそれ以上の存在が絡まり合ったネットワークこそが社会を形作っているという認識のもと、多様なアクターたちがどのように社会の関係や動態に関わっているかを分析します。この立場を反映して、ANTはネットワークに影響を及ぼすアクターたちの「能力」を、行為能力あるいは行為主体性(agency)と捉えます。 すると、微生物や無生物もまた、ある種の行為主体性を持つという結論へと行き着きます。これは人間だけを社会の構成員と捉える見方、すなわち一種の人間中心主義を問い直す切り口となりました。

可能性と危険性

 社会が人間だけでなく多様な存在者の相互的な関わりによって形成されていることは間違いありません。その点でANTという枠組みは興味深い視座をもたらしました。
 しかし、ANTには危うさもあります。ネットワークに影響を及ぼす能力(というより特性)を「行為主体性」と定義するその考え方は、意識や願望を持つ存在と、それらを持たない存在を同列に並べる含みがあります。先述した通り、ANTのもとでは、植物や微生物、さらには無生物や抽象概念までが行為主体に含まれます。確かにそれは人間中心的な世界観を揺さぶるかもしれません。しかし、ANTは行為主体性という概念をあまりに広く捉えているのではないか、という疑問は残ります。
 人間や他の動物の行為能力と、微生物や無生物が持つ社会への影響力は、本当に同列のものとして扱ってよいのか――この問題を考えてみることは、多種の倫理を模索するにあたって重要な検討課題となるでしょう。

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本稿は《交界の羅針盤》案内人・井上太一による独自整理である。
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