
序章
《交界の羅針盤|PyxisLimethica》は、相異なる生命と知的領域の交わりに立つ交界の思想を通して現代を見つめ、よりよい未来をともに構想するための学際的メディア・スペースです。
飢餓や貧困、環境破壊、資本主義の暴走をはじめ、今日の世界を悩ませる問題は年々その深刻さを増しています。これらをめぐっては、各地の哲学・思想・運動などが、それぞれの立場から応答を試みてきました。あるものは社会構造に含まれる力関係を浮き彫りにし、あるものは新たな倫理や政治の可能性を探り、さらにあるものは私たちが拠って立つ存在論を問い直します。
しかし、各々の知は固有の文脈や歴史、関心や優先事項を持っています。そのため、世界理解や問題認識の共有が充分に行なわれてきたとは言いがたく、互いの洞察を結び合わせることで見えてくる展望も、いまだ遠い可能性にとどまっているように思われます。
いま求められているのは、分け隔てられた観点や洞察を交え、そこにどのようなつながりがあるのかを探ることではないでしょうか。様々な領域で積み上げられてきた議論を見渡すと、他者を客体化すること、境界線を引いて排除すること、ある存在を不可視化すること、身体や生命を管理することなど、異なる文脈のもとで繰り返し現れる力の作用、あるいは共通のモチーフが浮かび上がってきます。これらの作用やモチーフは、多岐にわたる領域をつなぐ結節点であるようにも思えます。
《交界の羅針盤》は、多種解放という枠組みのもと、この結節点を手がかりに、諸領域の対話と相互理解を促します。領域を超えた邂逅は、互いの洞察を豊かにし、足りなかった部分を補い、さらには各々の問題認識や前提そのものを問い直す契機にもなるでしょう。
と同時に、領域の交わりは、それぞれのあいだの緊張や矛盾、容易には埋められない相違をも浮き彫りにするはずです。それらを単一の普遍理論のもとに回収するのではなく、なぜそのような違いが生じるのか、どこで私たちは歩み寄れるのかを探ることも、重要なプロセスに違いありません。
結節点と相違点の双方に注目することこそが、個々の領域だけでは見えてこなかった問題や可能性を照らし出し、これからの展望を描いていく鍵となるでしょう。すなわち、交界からの探究は、諸領域の往還を通し、新たな洞察の発見と深化へ向けた糸口を見出す試みでもあります。
世界の潮流に含まれる問題点を見抜くこと、一見良いと思われる方角に隠された落とし穴や見落としに気づくこと、よりよい存在のあり方や世界との関わり方、知のあり方を考えること、これらが今日を生きる私たちの課題です。
これを成し遂げるには、多様な人々の意見交換や知見の共有が欠かせません。専門知、伝統知、生活実践知、すべてが意味を持っています。参与する人々が問いを交わし、観点と経験を持ち寄り、互いの展望を深め広げていける空間をつくることが、案内人の願いです。
希望のある未来をめざし、ともに思索と実践を育む場として、《交界の羅針盤》はあなたの参加を心より歓迎します。
This project is also available in English.
Pyxis Limethicaとは?
Pyxis はラテン語で「羅針盤」、LimethicaはLimen 「境界」+Ethica 「倫理」の混成語で、異なる生命や知的領域の境に立ちつつ、新たな生き方を探る理念を表しています。
すなわち Pyxis Limethica(交界の羅針盤) とは、 多様な存在者たちの観点が織りなす多様な世界に寄り添い、私たちの進むべき方角を示す羅針盤となることを願った名です。
ロゴの意味
複数の円環が重なった羅針盤の図。
それぞれの円環は、異なる存在者たちの世界と、異なる知の領域を表します。

案内人
井上太一(INOUE Taichi)
翻訳家・執筆家。
批判的動物研究、脱植民地化論、ポストヒューマニズム、フェミニズムなど、多様な知の領域を横断しつつ、「人間」の観点を超えた関係の倫理を探究。
《交界の羅針盤》を立ち上げた動機は、多種解放という展望のもと、諸領域の知を結び合わせ、新たな世界理解と倫理的思考の方法を模索する場をつくりたい、との願いにありました。関心や専門の違いを超え、読者と案内人がともに学びを深め合うことをめざし、このスペースを育てていきたいと考えています。
【これまでの仕事】
著書
訳書
- アントニー・J・ノチェッラ二世ほか編『動物と戦争―真の非暴力へ、《軍事‐動物産業》複合体に立ち向かう』(新評論、2015年)
- ダニエル・インホフ編『動物工場―工場式畜産CAFOの危険性』(緑風出版、2016年)
- デビッド・A・ナイバート『動物・人間・暴虐史――“飼い貶し”の大罪、世界紛争と資本主義』(新評論、2016年)
- テッド・ジェノウェイズ『屠殺―監禁畜舎・食肉処理場・食の安全』(緑風出版、2016年)
- シェリー・F・コーブ『菜食への疑問に答える13章―生き方が変わる、生き方を変える』(新評論、2017年)
- ジョン・ソレンソン『捏造されるエコテロリスト』(緑風出版、2017年)
- マイケル・A・スラッシャー『動物実験の闇―その裏側で起こっている不都合な真実』(合同出版、2017年)
- ゲイリー・L・フランシオン『動物の権利入門―わが子を救うか、犬を救うか』(緑風出版、2018年)
- ジェームズ・スタネスク+ケビン・カミングス編『侵略者は誰か?―外来種・国境・排外主義』(以文社、2019年)
- マーク・ホーソーン『ビーガンという生き方』(緑風出版、2019年)
- ディネシュ・J・ワディウェル『現代思想からの動物論―戦争・主権・生政治』(人文書院、2019年)
- エリーズ・ドゥソルニエ『牛乳をめぐる10の神話』(緑風出版、2020年)
- ジェイシー・リース『肉食の終わり―非動物性食品システム実現へのロードマップ』(原書房、2021年)
- トム・レーガン『動物の権利・人間の不正―道徳哲学入門』(緑風出版、2022年)
- ロアンヌ・ファン・フォーシュト『さよなら肉食─いま、ビーガンを選ぶ理由』(亜紀書房、2023年)
- サラット・コリング『抵抗する動物たち─グローバル資本主義時代の種を超えた連帯』(青土社、2023年)
- パメラ・ファーガソン『ビーガン食の栄養ガイド』(緑風出版、2023年)
- キャスリン・バリー『セクシュアリティの性売買─世界に広がる女性搾取』(人文書院、2024年)
- ピーター・シンガー『新・動物の解放』(晶文社、2024年)
- シーラ・ジェフリーズ『性売買の思想』(緑風出版、
2025年) - サンドラ・リー・バートキー『女らしさと支配―抑圧をめぐるフェミニズム哲学』(慶應義塾大学出版会、2025年)
公式ウェブサイト:ペンと非暴力
researchmap:井上太一
読者への呼びかけ
《交界の羅針盤》は一方的な発信のための拠点ではなく、対話と共学のための空間です。
知識と視点の分かち合いこそが、私たちの思索と実践を育てます。新時代の生き方を探る交界の旅に、ぜひ参加してください。
あなたの気づきや問いも、この羅針盤に新たな方向を加える大切な力となるに違いありません。
