



私たちの社会では、細菌やウイルスなどの微生物が人間の脅威とみなされ、除菌の対象とされてきました。しかし現在では、行き過ぎた衛生管理が有益な微生物との接触を減らし、人間の免疫系を弱らせるなどの好ましからぬ影響をもたらしています。自然から離れすぎた生活様式は、自然にとってだけでなく、人間にとっても良くないことが明らかになってきました。
そうした知見が増える中、新しい自然との共生を考える思想が急速に広がっています。建築部門では近年、プロバイオティクス建築という発想が脚光を浴びつつあります1。
プロバイオティクスの思想
プロバイオティクスとは、有益な微生物を積極的に取り込むことで人間の健康を高めていこうという考え方です。善玉菌を含むヨーグルトを食べることもその方法の一つに数えられます。
この発想を建築部門に応用したのが、プロバイオティクス建築です。例えばコンクリートよりも木材を使う、高層建築の壁面を植物で覆う、さらには微生物が住みつける建材を用いるなどの工夫により、植物や微生物との接触を促す発想です。現代人は約90%の時間を屋内で過ごすため、建築の見直しは生活の質に大きく影響するでしょう。
多種関係の視点から見つめると
これは潔癖の行き過ぎによって歪みをきたした多種関係を、生活環境の設計によって改善する試みの一つと捉えることができます。また、プロバイオティクス建築はそれ自体が注目される技術ですが、私たちのライフスタイルを変えていくきっかけにもなるでしょう。例えば、家のベランダや屋内に鉢植えの植物を置いてみるといったことだけでも、土や植物や微生物との接触が増えるに違いありません。
人間と他の生物を切り分けてきた従来の生活様式が、建築や住環境の思想において徐々に見直されようとしていることは一つの明るい兆しと言えます。《交界の羅針盤》は、この新しい潮流を引き続き追跡し、その展望と課題を分析していきます。
関連資料
ニュースレター「LIMINOSCOPE 」では、本稿のテーマを他分野の理論や知見と掛け合わせることで多層的に深めていきます。
ご登録は以下のリンクから行なえます(無料購読可能)。
註
例えばKatherine Bourzac (2025) “The probiotic home: Where microbes are welcome guests,” Nature, https://www.nature.com/immersive/d41586-025-03291-2/index.html を参照(2026年6月13日アクセス)。
