



私たちの身の回りには動物、植物、微生物など、様々な生きものが存在しますが、その中でも特に動物との関係は多岐を極めます。ペットとなる動物もいれば、サーカスで利用される動物もいます。そして実験材料や食品にされる動物たちもいます。このような動物たちとの関係を批判的に問い直す学問が動物倫理学です。動物倫理学は動物の道徳的な地位と、その扱いを考え直す分野として発達してきました。
動物倫理学の発祥地
人間が動物に対しどのように接するべきかという問いは、世界中で古くから考えられてきました。肉食に関する戒めは古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』にも見られます。しかし、動物と人間の関係をめぐる倫理がとりわけ精緻な理論として発展したのは西洋文化圏でのことでした。
これは皮肉なことでもあります。西洋社会は世界的に見ても、動物に対する扱いが苛烈を極めていたからです。西洋の伝統的な宗教思想や哲学では、人間と動物が全く異なる存在であると考えられてきました。「人間は神の似姿であり、動物の支配権を持つ」「人間は魂を持ち、動物は魂を持たない」などの諸説は、人々の常識として広く浸透していました。
では、なぜその西洋において、動物への配慮が理論体系として高度な発展を遂げたのでしょうか。
存在論の転覆
動物に関する西洋社会の常識を覆したのは、生物学の発達でした。特にチャールズ・ダーウィンが唱えた進化論は、その大きなきっかけとなりました。これによって、人間は生物進化の歴史上に位置する動物の一種にすぎないことが示されたのです。一方、他の動物たちが人間と同じく、知性や感情や意思を持つことも明らかになってきました。人間と動物は全く異なる存在であるという考え方は、徐々に通用しなくなりました。
すると、それまでの常識にもとづく動物の扱いも見直される必要が生じます。動物たちがこれまで思われていたよりもずっと人間に近い存在であり、豊かな精神性を持っているのだとすれば、かれらはこの世界においてどのような地位にあるのか、人間はかれらをどのように扱うべきなのか、といった問題が噴出します。動物に関するこのような認識の変化が、動物倫理学を生む原動力となりました。
ただし、動物の地位や扱いについて、動物倫理学が示す答えは一様ではありません。むしろ動物倫理学という領域は、その内部で様々な論争を生みつつ発達を遂げてきました。その詳しい内容については、回を改めて見ていくことになるでしょう。
ニュースレター「LIMINOSCOPE」では、動物倫理学の主要な理論を他分野と交差しつつ、新しい多種関係の倫理を考えていきます。
CODEXに、動物倫理学の代表的な立場を整理したインフォグラフィックがあります。併せてご参照ください。
