アイヌ民話(ウウェペケレ)の「石狩を守るクモ神の夢を見たパロアッテ」(話者:上田トシ、収録日:1999年6月15日)は、神々の世界と人々の世界、そしてその境界をなす石狩川を舞台に、多様な存在者たちの関係を描き出す。
話は村(コタン)の長者である狩人によって語られ、その中で狩人に同行する若者パロアッテが夢の話を語り、夢の中で石狩川を守るクモ神(ヤオシケプカムイ)が人の姿となって神々の話をパロアッテに伝えるという入れ子構造をなしている。
狩人の語り
パロアッテの語り
クモ神の語り
クモ神によると、天の世界にはチチケウという悪い兄妹がいて、人間界を荒そうとしている。
そこで神々は英雄ポイヤウンペに相談を持ちかけ、ポイヤウンペは地に降り立った。
すると、続いて天の国から降りてきたチチケウの妹は腹を壊し、そのゆりかごは墜落した。

クモ神は夢の中でパロアッテにこの話を伝え、狩りをせずに村へ戻り、ポイヤウンペへの返礼とクモ神への祈禱を行なえば、自分はその代わりに村人たちを守ると約束する。
パロアッテからこの話を聞いた狩人は、クモ神が言うとおりに村へ戻り、村人たちとともに儀礼を施した。子孫には、ポイヤウンペへの祈りを忘れず、石狩川に近づかないよう語り伝えた。

この民話では、天界の善悪を象徴する神々とチチケウ、石狩川を守りつつ天界との媒介者となるクモ神(ヤオシケプカムイ)、そして祈りを捧げる村人たちとその村人たちを守るクモ神の関係が描かれている。
物語の世界においてクモはしばしば魔物として表象される。しかし、石狩を守るヤオシケプカムイの伝承は、そのようなステレオタイプ化した動物観に一石を投じるもののように思われる。
参考資料
- 上田トシ(1999)「C0233. 石狩を守るクモ神の夢を見たパロアッテ」アイヌと自然デジタル図鑑、https://ainugo.nam.go.jp/siror/contents/C233_arasuji.html(あらすじ)およびhttps://ainugo.nam.go.jp/siror/contents/lib_pdf/C233.pdf(全文PDF)を参照( 2026年4月26日アクセス)。
