



人類学者アナ・チンの著書『マツタケ』は、多種民族誌が生んだ重要な参照点の一つです1。
本書の中で、チンは松を中心とする多種関係を描きます。すなわち、松は根を伸ばして菌根菌を養う一方、菌根菌は松に栄養を与え、他の菌類や有害物質から松を守ります。松の種子は小動物や鳥の食物となる一方、その動物たちは種子を食べてその拡散に寄与します。人間もこの多種関係の一員であり、周辺の木々を切り倒すことで松のコロニーを育てる、とチンは述べます2。
アセンブリッジ
このような多種関係をアナ・チンは「アセンブリッジ」と名付けました。これは英語で「集合体」を意味します。生きものは各々の時間軸で自分の世界を形成しますが、それらは重なり合って複数の種に生きる場を与えます。生きものは(人間も含め)自律性を持ちながらも独立して生きているのではなく、アセンブリッジによってその暮らしを形作られるというのです3。生きものたちの自律的な働きを認めながらも、その相互依存的な生のあり方を捉える視点に、この概念の特色があります。
人間の脱中心化?
このようなアセンブリッジの考え方は、世界の多数性や生きものたちの相互形成を可視化します。のみならず、それは人間を世界の超越者ではなく多種関係の一員と見ることで、世界における人間の立ち位置を脱中心化するものと理解されています。この考え方は、ポストヒューマニズムによる人間中心主義批判の代表例といえるでしょう。
ただし、ここですでに疑問を抱いている人もいるに違いありません。特に、上の記述にもあった松の共同体と人間の関わりをめぐる捉え方に、違和感を覚えた人もいるのではないでしょうか。生きものたちの相互依存関係を描くチンの枠組みが、何を明らかにし、何を見えにくくしているのかを考えることは、多種の存在論と現状批判を結びつける重要な問いです。
今月のLIMINOSCOPEでは、この現在主流の多種関係論に潜む問題に光を当てます。
註
- アナ・チン著/赤嶺淳訳(2019)『マツタケ――不確定な時代を生きる術』みすず書房。
- Ibid., p.255-6.
- Ibid., p.31-4.
