明治期の日本は、東アジアやアイヌモシリ(北海道)の侵略を進めるうえで、西洋列強による植民地支配の手法を取り入れました。例えばアイヌモシリの侵略では、北米大陸の侵略に使われた知識と技術がダムの建設や農牧業の拡大に使われ、土地の征服が進められました。ここには、一つの帝国主義と別の帝国主義の影響関係が見て取れます。
トランスインペリアル・ヒストリー(TIH)と呼ばれる新しい分野は、このような帝国同士の相互作用に光を当てます。「トランス」は越境、「インペリアル」は帝国、「ヒストリー」は歴史なので、TIHは国境を超えた帝国の歴史を指しますが、この分野の狙いは複数の帝国主義が国境を超えて互いに参照され、互いを強化していった動態を明らかにすることにあります1。
関係から問い直す帝国と抵抗者の歴史
水谷智らの編著『トランスインペリアル・ヒストリー』2によると、従来、帝国の歴史は単一的に捉えられ、特にイギリス帝国が他の帝国のモデルと位置付けられてきました。しかし実際の歴史を振り返ると、種々の帝国は互いに技術や知識や人の交流・交換を通して、支配と侵略の手法を発達させていきました。そこには互いに競合しつつ、部分的に協力し合う諸帝国のネットワークが見て取れます。列強の拡大は共同の企てであり、互いとの緊張関係をも含め、互いを強化する関係にありました。
一方、植民地化された人々の経験や抵抗も互いに絡み合います。例えばイギリスに支配されていたインドの独立闘争は、他国の解放運動における参照点とされてきました。TIHはこのように帝国やその影響下にある人々の関係史を掘り起こすことで、単一の帝国や抵抗者にフォーカスしてきた従来の歴史理解に新たな層を付け加えます。

人間以上のTIH?
多種解放の観点から考えたいのは、ここに人間以上の視点を加えるとどのような歴史が描けるか、という点です。『トランスインペリアル・ヒストリー』の著者である水谷らも、TIHが歴史の主体を人間以外の存在にまで拡張しうると述べていますが3、この点については動物研究や多種研究から寄与できるところも少なくないと思われます。
人間以上のTIHを描く試みは、ニュースレター「LIMINOSCOPE」で引き続き検討していきます。
註
- 「トランスインペリアル・ヒストリー」を直訳すると「間帝国史」であるが、その研究理念を考えると、「帝国間動態史」などと訳すのがよいかもしれない。
- 水谷智、馬路智仁、山田智輝編(2026)『トランスインペリアル・ヒストリー――植民地主義への新たな視座』人文書院。
- Ibid., p.29.
